彼は集荷先の無い小さな宅急便用の箱を脇に抱えていた。今日は休みだった。彼の歩く道は、まだ白と灰色が上手くいってなかった。通りすがった主人も不安になって、車に乗るよう勧めた。彼は散策も兼ねているのだとその言葉を遮った。彼は歩き続けた。そのままどこかへ消えた。
僕は警察署へ向かう。
彼がこの島に来た日を報告する。彼の顔をパスポートの写しから知る。名前、年齢、身長、体重、性格、髪型、服装、彼が居た場所、資金の有無、消えた理由、問題、状況、微細な情報、交友関係、彼がこの島に居られる法的時間。
僕はあまり知らない彼について語る。彼がそこに居ないということを認められる。誰も捜したりしないのに。彼に関わらなくてはいけなくなった人間達が建前で馬鹿みたいに彼の話を語る。僕は彼が幸せならそれで良いと思う。「良く頑張ったね」と一言告げたいくらいだ。
彼の話はこれくらい。
僕は彼のことをこれっぽっちも知らないのだから。
さて、今日はそう上手くいかないかな。
大きな牛が相手だ。
涙を落としたり、荒れ狂っちゃうのかな。
でも、仕事だから仕方がない。
自分が虎だと思い込んでいる猫が、憐れな牛を捕まえてきます。
