僕の一年には365日ある。
その一年には四季がある。
この一年には多くて2日、通例としては1日だけ終末のセレモニーがある。
一年の中で僕にはそれまでの自分と決別しようと思う時が訪れる。
今でもふとした瞬間に訪れるけれど、昔に比べたら随分と少ない。
セレモニーでは本当に必要ではないものを捨てようと考え、そのまま捨てる。
必要かどうかわからないものは多い。
少しでもわからないと思えたのなら、それらは僕の手元から離れていく。
その中には人間もいた。
多くの人は知らぬ間にそのセレモニーへ参列した。
雨に触れない屋根と、指の数ほどの友人、お金、音、手紙、鉛筆、本当に必要なものはそれくらいで足りている。
僕は今でも時折必要な物を並べてみる。
それはとても少ない。
「本当はあなたが一番冷たいと思う時すらある」
僕はNが僕に向けた言葉について考えた。
今の僕には、昔の様に何かを捨て去ろうという気があまりない。
だから、昔の名残りに挨拶された気分だ。
「時々」だけ、見え隠れしているのかな。
それにしてもNはどうやって僕と誰かの精神の温度を秤にかけているのかな。
僕の頭では、その秤で精神の冷気を比べ合うことを想像しても上手くいかない。
多くの物を捨てる代わりにその秤が欲しい。
その秤で精神の熱を計ろう。
冷たさではなくて、温かさを。
僕の精神は昔に比べたらずっと生温くなった。
誰かのおかげだ。
ずっと前、そのセレモニーにいた誰かの。
