Letter 3
先に言っておくのを忘れてしまったけれど、残念な事に君の為になる話は一つもないんだ。語るべきことなんてまるでない。僕のイタリアには街、聖堂や教会、遺跡、古城、美術館を通じた美しさの長ったらしい説明は必要ない。そんなものは、西へ伸びる海辺の傍で、どうでも良くなってしまったんだから。それは彼女のおかげなのだけど、彼女の所為と言った方がいい。僕には分からないイタリア語を何度も英語に直してくれた彼女が、その時だけイタリア語でしか僕に話さなかったんだ。僕は何度も彼女に聞き直すけれど、彼女は英語で話さなかった。僕はずっと今歩いているその場所について説明しているのだと思った。それは見当違いじゃなかったよ。でも、それは僕の思っていた内容とは違っていた。彼女はそれを紙に書いて僕に見せた。僕は持っていた辞書と仲良くしながら、彼女の言葉を辿っていく。その間、彼女は素直な顔をして何度も同じ事を言った。僕はその紙に書いてあることを彼女に告げた。そして、僕の口から出たその言葉は僕自身にも告げられていた。
「ジョバンニ。ここは世界で最も美しいところです。太陽があって、海がある。そして平和と愛がある。何より美しい」
僕はその通りだと思った。
だから「僕もそう思う」と言った。
「本当に?」とマウラが笑いながら聞くので「本当に」と答えた。僕は本当にそう思った。僕は心からマウラに言おうとした言葉を贈った。だから、それ以上の言葉を彼女に捧げなかったんだ。本当だよ。それは本当なんだ。
