僕のお気に入りの場所は、いつも人がいない。この浜辺もそうなのだけど、少し海水浴場から歩いて行くとそこにはアシカの群れ(真っ黒なサーファーさんをいつもそう呼んでる)もいない。テトラポットが波を大人しくさせるから、砂は静かにするしかない。だから、水が澄んでいる。時折、群れから外れたアシカが寝そべっているけれど、また海の沖へと戻って行く。
僕の時間だ。
『マエストロ、こちらのステッキでよろしいですかな?さあ、ご存分に。それでは始めていただきましょう』
「承知しました。では手始めに私めの名をこの地に刻みましょう。私めが此処に来た事を母へ伝えなくてはなりません」
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ロブロイって砂浜に書いた。

「素晴らしい。良いステッキです。これならば、猫や鳥、イルカも呼び寄せる事も出来るでしょう。しかし、それでは面白くない。さて……」
『おお!!これは!!ロブ……いえ、マエストロ!こ、このような生き物を呼び寄せるとは!』
「ふふっ驚かしてしまい申し訳ございません。どうも猫では興が醒めるというもの。正にこれが!この地に住まう伝説の海獣でございます」
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砂浜に海獣を描いた。
『さ、流石でございます。恐れ入りました。はて、何だか怪獣様は怒っているようですが……』
「んーきっとお腹がすいているのです。これはいけない!彼が怒ると大変な事が起きてしまうでしょう。ささ、彼に何か食べる物を探しましょう」
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落ちてる海藻とか石とか海綿とか花とか海獣の口の中に集めた。(結構、時間かかった)

『おお、マエストロのおっしゃる通りです。お腹が空いていたのですね。おや、なんだか海獣が唸っていますが……』
「では私めが海獣に聞いてみましょう。なになに?ふむふむ。そうか。わかりました。魚も食べたいそうです」
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大きな魚も描いた。

しばらく、そんなこんなで一人遊びをし続けた。陽射しが山の隙間へ帰ろうとする。海獣にはもう陽射しが当たらなくなってきた。
潮が満ち始めている。魚の尾が波に撫でられて消えてしまった。もう少ししたら海獣も海に帰らなきゃいけなくなる。
波打ち際でハートを描いた。何度も何度も描いたけれど、波に呑まれて消えた。愛は儚い。もう少しだけ海獣のそばにいることにした。手記を綴る間くらい。
休みだと言うのに、朝っぱらから仕事の電話がひっきりなしに鳴る。東京のオフィスに全て置き去りにして、海でぼやぼやしているのに。もう電話に出るのはやめにした。正直なところ、そんなに慌てる話じゃないしさ。
僕の方がよっぽど大変だよ。ロブロイは今すごく忙しいんです。怪獣と一緒にいるんだから。
