そのスーパーマーケットのフードコーナーにはそれほど魅力を感じなかった。誰も僕を頼ることなんてない。僕には退屈な場所だった。
誰かが化粧品を買う為に、口紅やら顔の表面を整えるそれらについて、多くの時間が費やされる時に僕は椅子を探してしまう。その時と同じだ。
僕には良いトマトを選ぶ時に、それがどれほど良いトマトかわからない。
誰かの目の動きに沿って、口紅の番号を追いながら、どの色が素敵かなんて僕にはわからない時の様だった。
僕は「先に帰りたい」と話す。彼女は「かまわない」と言うので、僕は緑や赤が白い光に照らされたその場所から立ち去る。
生暖かい外気と仲良くしながら、長い坂道を上る。坂道を歩きながら想い出を掘り起こす。
「何か残るものがあったのではないかな」と頭の中で過る幾つかについて考えようとしたら、彼女は僕に追いつく。
彼女は両の手で箱を持っている。
箱の中に腕時計が沢山詰めてあって、お気に入りを僕に選ばせる。
そのお気に入りは、彼女が僕に残しておきたかったものだと教えられる。僕の為に残されたかもしれない腕時計を一つ選ぶ。けれど、選んだお気に入りは直ぐに箱から消えてしまう。僕はその後も腕時計を探し続けるけれど、見つけることはできない。
夏の出来事だ。鐔の長い帽子から生まれた影は、紅い唇の少し上で休んでいる。
