イタリアのドミトリーホテルに泊まっていた時もそうだったのだけど、僕はくたびれた感じのするホテルが好きみたいだ。
壁のシミやひび割れ、天井の黄色いエアコンやら、シャワーをする時にドアを閉めないと火災報知器が鳴ってしまうような粗末な換気扇、座り心地がさほど良くないけれど悪くもない椅子に、安堵する。
誰かがそこで寝泊りを繰り返した事がはっきりとわかる。小綺麗なシングルルームでは、何だか息が詰まってしまう。一人ならこれくらいが良い。
けれど、ずっとそこに居ようとは思わない。「帰ってきた」という感触がどこにもないから。僕はこのホテルを訪ねてきた人達の一人なだけだ。訪問者。ほんの少し長い寄り道。
「やあ、お初だね。知らない街は疲れるだろうよ。こちとら長いがね」という部屋の匂い。
ちゃんと「他所者だ」と、そのホテルの部屋が僕に教えてくれている気がする。
