久々に東京へ戻った。
何をするでもなく、外界に足跡を残す事にした。
外に出るという事は、世界に干渉している事を、僕がここにいるという事を、誰かに伝える行動だと自分に説明した。
色々な導き方が人にはあって、存在の示し方も多様なのだけど、僕の場合は足跡に限っている。
僕の足跡には、蜘蛛の糸の様な光線が映えていて、その光線は僕の存在の証明になる。
僕が居なくなっても、その足跡が消えても、光線はそこに佇む。光線はずっと消えない。無数の足跡から光線が溢れる地球。溢れた光線が寄り添う球体を想い、ニヤニヤしてしまう。
トルストイだったか、もう誰かすら忘れてしまったけれど、誰かの幸せの論理はその人の理想論、端的には一つの願いでしかなかった。真っ当な理屈はない。夢見事ばかりで、くだらないとさえ思った。読み終わると直ぐに薄っぺらな本をソファーの片隅に放り投げて、アルコールに染る。ジンとウォッカは安易だ。それを繰り返していた頃から、足跡の光線なんてくだらないとずっと思っていた。けれど、そのくだらない事だけは大人になっても忘れなかった。
誰かとの別れ際にも、足跡の話をした。
「僕の光線を見つけた連絡がまだ誰からも届いていない」と伝えると、「まだその必要はないからだ」と言われた。
確かに僕も誰かの足跡を探したのは、一度きりだったと思い返す。
「今は足跡を残す事だけを考えて、終いに灯を眺めたら良い」
今は、色々な場所へ足跡を残そう。
僕の足跡の傍、
いつも同じ人の光線が寄り添っていれば、
ずっと素敵だ。

P.S.
いってきます。
良い1日を。全ての人に。