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LobLoy's diary

現実日記・妄想日記・夢日記

ラザーニャ・エンドレス

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ラザーニャ・エンドレス

夢の中で夢の布団に潜り込んだり、夢で夢を見ようとする場合、僕にとってのそれは幸せな事が多い。

夢のベッドシーンには、一人でいるという場合が少ないからだ。だからって誰かと愛し合っている(つまりは、そういうことだ)という機会は少ない。僕は、先に眠りについてしまう。仮に機会があったとしても、愛する人では無いことが多い。だから、夢の中で僕と愛する人の間で巡る時間というのは、とても質素なものがほとんどだ。

ベッドの上で挨拶をするとかくらいに、いつも傍にいるのであろう時間の面影は感じられるのだけれど、僕に分かるのは彼女がとても愛しいということや、多くの彼女には悩みがあること、一緒にいる時間のほとんどが真昼間であるとか、まあ、そんなところ。

もちろん、僕達の質素な時間はベッドシーンだけではない。生活の至る所で巡っている。でも、ベッドの上とそこの違いを説明しろと言われたら、僕は困ってしまう。

僕達は、どこかへ行くということがないからだ。いつも違う部屋や場所、または時間で彼女と出会うのだけれど、僕達はそこに行ったとか、出掛けているという感覚はあまりない。そこに居ると言った方がしっくりくる。

夢の中の夢のレストランで、一人でラザーニャを食べるとして、僕は「いつもラザーニャを食べている」らしいから、注文をする必要がない。いつだって僕はずっとそこにいて、そこにしかいなくて、そこでラザーニャをずっと食べ続けてきた男なわけだ。ラザーニャ・エンドレスと、二人の世界は似かよっている。

僕と彼女は食事をする。でもレストランでラザーニャは、あまり食べない。一緒に食事をするけれど、それはどちらかが用意したものだ。僕達は、僕達だけの、または僕の分だけを準備して食事をする。レストランも本当は要らないことになる。僕が食べたいものを彼女は知っている。「ラザーニャを食べるなら、一人でかまわないわね」と彼女は心得ている。だから、食事なんて気にしなくっていい。どちらかといえば、真っ白な彼女のためにビーチパラソルが必要になる。

僕らは話をするけれど、その話題は悲しいニュースのあれこれについて、それが「とても悲しいことだ」と改めて言い直すのに似ている。もし、僕の家が燃えてしまったとして、僕は自分の家が燃えた事を知るなら、彼女もまたそれをどこかで知る。その事を知っている僕に、彼女がそれを時々教えてくれる。

彼女は僕の仕事について、しばしば調子を訊いてくる。そして、僕に忠告をする。

「明日の仕事は気を付けて。あそこの人達はせっかちだから。ユトリロの額縁が、壁に何度もぶつかっているでしょう。ガツガツって。絶対にダメ。音を鳴らしてはダメよ」

僕に忠告する彼女は、とても優しい。本当は伝えようとする気なんて、まるでないのかもしれないけれど。女の人はどうして笑いながら声を出せるのだろうと考えてみる。赤い髪が、少しだけ気になる。

彼女について、愛すべきところを簡潔に説明するなら「僕について、知っているということ」なのだけど、それを更に具体的にすると「彼女は、僕が悲しくならないようにするための方法を知っている」ということになる。

僕はレストランより、二人で家や海岸やら、草原や砂漠で一緒に食事をしたいし、彼女が目覚めるのであれば、その様子を眺められるだけで良い。仕事の話なんてしなくてもかまわない。二人の真昼間に僕が仕事の話をしたがるなんて、あり得ないのだから。

二人でいる間にユトリロが酔っ払っていても僕には関係ないことだし、その時には誰かがルノワールの小さな花束をどうして手放したのかもどうでも良いし、ビュッフェの街並みは好きになれると思うけれど、今は、無理だ。

真昼間にはどうでもいい。

僕にとっては幸せなことだから。

「愛している」とか「好き」とか、僕が伝え終わることのできないその時も、あの人は嫌な顔をしない。

彼女は、それをよく知っている。





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